聖ハナニヤ修道院
アンティオキアのシリア正教会―歴史と現在、その概観を一望する―
 シリア正教総主教イグナチィウス・ザッカ1世自筆によるシリア正教概観文書の翻訳です。

 

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シリア正教会の現在
  シリア正教会の信徒数は現在、約300万人です。彼らの多くはインドに住み、その他は主としてシリア、レバノン、イラク、ヨルダン、トルコ、エジプト、ヨーロッパ、南北アメリカ、そしてオーストラリアに住んでいます。現在の最高位はイグナティウス・ザッカー1世・イワス、アンティオキア及び全東方総主教で、アンティオキア総主教の正統な系譜における聖ペテロの122番目の継承者です。この最高位は世界中のシリア正教徒にとって共通の父とみなされます。シリア正教会の全ての位階の人々(カソリコス、高位聖職者、聖職者、一般信徒)は、彼に従います。

 総主教の名前は、聖餐時、日々の祈りの最後、宗教上の祭日、そして聖職受任式のような他のスピリチュアルな儀式の中で、インドのカソリコスの名前やそれぞれの教区の主教たちの名前よりも先に言及されることになっています。彼の称号は「アンティオキアと全東方の総主教にして世界のシリア正教の最高位である、神聖なるイグナティウス」です。彼の宗教上の義務には、カソリコスの叙任、正統に選出された主教の叙任、そして少なくとも2名以上の主教の補佐による聖香油の聖化が含まれます。また彼は、彼が議長を務める世界主教会議等の会議を召集する権限を持っています。彼はニケア、コンスタンティノープル、エフェソスで開催された3回の公会議や聖教父たちによって確立された教義に反する異説をシリア正教の信仰に持ち込んだ場合、教会法から逸脱した場合、精神障害が生じた場合、そして重大な不品行に関して有罪とされた場合以外は、退位させられることはありません。

 総主教には、アンティオキア総主教座に属する全ての主教から構成される聖主教会議(シリア正教で最も権威があるとされています)に対する説明責任があります。この聖主教会議は、必要とされる場合に、総主教の選出及び叙任の権限、主教の選出の承認権限、主教が教義や教会法から逸脱したと考えられる場合にその主教を調べ裁く権限、主教の異動権限、主教の辞職や免職の受理もしくは拒絶の権限を与えられます。同じく聖主教会議は、新しい教区の設立や現在する教区の廃止の権限を持っています。参加資格を持ったメンバーの3分の2以上の出席によって、聖主教会議は正統なものとみなされ、多数決で行われる決議の結果は、総主教の許可によって発効します。

  [この文章が書かれている時点(1983年)で]シリア正教会は27の教区からなり、そのうち10がインド、残りは世界中の諸地域に広がっています。各教区にはそれぞれ一人の主教がおり、主教は教区内の精神的な事柄を管理し、司祭、修道僧、助祭を任命し、聖壇、教会、及び洗礼式のための聖油を聖化し、そして教区内の福祉のための細則を編集します。各教区には、主教の管理職務を助けるために、教会委員会及び信徒委員会があります。

 全ての教区はシリア正教会の正統な信仰を維持し、古くから継承されてきた使徒の伝統を保持しています。典礼は、それぞれの地域言語と共にシリア語で行われます。過去には、シリア正教には数百もの修道院がありましたが、今でも繁栄しているのは一握りに過ぎません。最も有名なものは、中東にあります。

1. イラクのモースル近郊にある聖マタイ修道院
2. トルコのトゥール・アブディンにある聖ガブリエル修道院。これらの修道院が設立されたのは4世紀に遡ります。
3. トルコのマルディン近郊のダイル・アッ=ザアファラーンとして知られている聖ハナンヤ修道院は8世紀に設立されました。
4. それぞれの修道院には神学初級学校があります。
5. エルサレムの聖マルコ修道院は、キリスト教の誇りに値する修道院です。なぜなら、イエス・キリストが十二使徒と最後の晩餐を行った部屋があるからです。この歴史的事実は、1940年に修道院内にある教会のしっくいの下で発見された銘によって裏付けられました。その銘はシリア語で書かれ、6世紀のものでした。そこには次のように書かれています。「ここは、マルコと呼ばれるヨハネの母、マリアの家です。」

 シリア正教会には、二つの神学校があります。一つはレバノン山中[1996年以降はダマスカス]、もう一つはインドにあり、聖職者を養成しています。

 シリア正教会は活発に進歩し、成長しています。ギリシア正教の歴史家は、シリア人は活動的で熱心な勤労者で倹約的であり、そのゆえにシリア人には乞食がほとんどいないと言っています。シリア正教徒は、耐え抜いてきた大きな危機の数々にも関わらず、堅実に働くことを好み、外国人の浪費性向を真似することがなかったので、生活レベルを維持しています。前世紀、聖公会教会からやって来た研究者は、シリア正教会についてこのように述べました。 「シリア正教会は彼らの古来からの信仰に情熱的に忠実であり、そして彼らが非常に長い間悲惨な抑圧にさらされてきた外国の宗教による支配から自由の身となることとなれば、神の神意によって新たな根を張り、上方に実を実らせる可能性があります。というのも、彼らの現在の弱められた状況の中でもその全てに現れている通り、彼らは東方及び南方の地においてかつて繁栄していた古代教会の継承者なのですから。」

 シリア正教会は、前総主教イグナティウス・ヤコブ3世の努力により、1960年に世界教会協議会のメンバーとなりました。現在[1983年]、アレッポのグレゴリウス・ヨウハンナ・イブラヒム大主教が、世界教会協議会の中央委員会でシリア正教を代表しています。シリア正教会は、地域教会協議会のメンバーでもあり、他のキリスト教会と協働し、公式及び非公式なレベルでのエキュメニカルな対話、神学的な対話に参加しています。

結び

(英語原文はこちら:http://sor.cua.edu/Pub/PZakka1/SOCAtAGlance.html

   
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